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2006年12月09日

月の兎と星の蝶の子守唄2・歪みと鎖/前編

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童謡・月の兎と星の蝶の子守唄の最終章です。序章と一章の続編です。是非、序章と一章を読んでからこちらを見てください。(そうしないと話が見えないので・・・)
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1. 大海原と大地と世界

海―――。
大きい海。美しい海。そして危険な海。
星の8割を占める広大な大海原は、確かに日常生活に必要な恵みを約束してくれますが、その性格は陽気で気まぐれ。津波や嵐といった自然現象は人々の生活を奪う事もあります。
 人々を脅かすものはそれだけではありません。広大な海には巨大な生物も住んでいます。弱肉強食の世界では、弱い者はただの餌に過ぎません。戦いに負ければ、街ですら飲み込まれてしまいます。
この海の底には過去の遺産や今まで見たこともないようなものが溢れていると言われています。そういったものが、日常生活に飽きた人々を外の世界へ誘き出し、大概の者は帰ってこないのです。それとは逆に、その海の心地よさに留まる者もいます。残った人々は、次第に村、街を作り、国と呼べる大きさまで発展していきます。大海原の中心部に近いこの一帯は、小島が無数に存在し、陸地も豊富にあります。僅か2割に満たない大地の3分の1はこの海域に集中し、透き通った美しい緑色をしています。かつて楽園と呼ばれた神聖なる緑色の海として今でも信仰の対象となっているのです。
もともと、この海域は穏やかで魚も豊富です。毎日食べるだけの漁と、海藻や海水でも育つ植物を栽培して生活を営んでいます。ゆるりと海の上で暮らす人々の心は、大らかでやさしく、時間に左右されないマイペースそのもの。争いとは無縁の生活でした。

 この大海原を治めている者は、代々「ヌシ」を名乗ります。基本的には巫女としての力が最も強い女性が選ばれます。原始的な自然崇拝で、総てのものに神が宿ると言う考え方をもとにここを治めています。精神的なものを尊重し、そういった力の強い者が政治の重要な位置にいました。しかし、実際には名前だけの偶像。現在のヌシがこの大海原を治めてから、一度も政治に加わった事はありません。ここ3〜4年はヌシの命を受けたと言う一部の者達が幅をきかせていました。

 ところが最近になって、変化が起こりました。部下達に任せっきりだった大海原の「ヌシ」が、自らこの大海原を取り仕切るようになったのです。そのお陰で、随分と細かい部分まで変わりました。不思議な力と先見的な目を持つヌシは、一部の特権階級だけが得をするシステムを廃止し、近隣の街や村、集落を総て見渡せるように、要所に建物と人員を配置するなどして行動範囲を広げました。急な変化に側近や民も戸惑いましたが、効果が出始めると、皆がヌシを応援するようになりました。噂では今まで取り仕切っていた部下達はすべて辞めさせられたようです。

いったい、大海原のヌシに何かあったのでしょうか? 

 噂では祭壇から空に一筋の光が伸び、ヌシと何かが契約したと言われていますが・・・どちらにせよ、この事により大海原は、世界は変わっていく事になります。

 そのひとつに、陸地との交流が回復した事があげられます。定期便としてわずかに船が行き来していたものが、今や誰でも道を通って簡単に行く事が出来ます。漁もどこでも自由に獲れるようになりました。

 大地を取り仕切る大地の「ヌシ」と大海原の「ヌシ」がよく会っているのが見られます。このふたりを知る者の話では、供に随分と変わったそうです。今まで政治に無関心だった者達が、今では細部まで目を通し、更には先を見越した話までするようです。特に大地と大海原の連携の強化には力が入っているようです。あまり仲が良くなかった同士が、今や一番の理解者になっています。
どうやら、本当に何かが変わっているらしい。もしかしたら、この先になにかあるのでは? ・・・そう思わせる程、急激に変化していきます。

 見た目はのどかで平和な世界・・・その均衡を崩すような事がおこるのでしょうか?

 そう言えば、この地で小さい赤子が混沌からこの世界守る為に戦ったとの噂話を最近耳にします。大地と大海原のヌシもそこに関わっているとか。戦いの後は荒廃した大地として今でも残骸と瘴気が漂っている・・・そんな噂が。荒廃した大地を唄いながら浄化している何者かがいる・・・。抉れた大地を修復している者達がいる。見たこともないのに、妙に真実味のある不思議な話です。

 さてさて世界は随分と変わっていっているようですが、この広大な大海原に面した世界には、まだまだ不思議なものが多く残っています。

 その中のひとつに、小さな島の見えない小国があります。この大海原に無数に存在する島々のひとつに、小さな森があり、その何処かに在る・・・と言われている小国です。非常に目立たない国で、実際のところ、迷い込んだ旅人の話が伝わっているくらいです。それもそのはず、ここは隔離された世界なのだから。
ここは豊富な自然と枯れることの無い水や作物が生えている不思議な場所です。どんなに厳しい冬の時でも、この国は暖かく、生活に困る事はありません。そんな夢のような隔離された国は、もう何十年も外部からの訪問者がありません。その島が特別大きいと言う事でもなく、そこにある森も山も非常に小さい。それでも森の中の国には、一向にたどり着けないのです。この周辺は黒と褐色の石で覆われていて、近づくと磁場の影響により方向感覚を狂わせます。この石はこの星のものではありません。これは月より落ちてきた石です。何故かこの地には多数の隕石が集まってくるのです。ここに生えている植物も月のもの。森そのものが、月の樹木です。特に磁場の強い場所には、何故か竹が生えています。
隕石が集まった理由が、人為的なものか自然的なものなのかはわかっていません。経緯はともかく、結果として特殊な磁場が月とこの地を繋いでいるようです。ここは月の一部だと昔から言われています。月の浄化を浴び、この星と月の次元がつながった場所と。

 この国に住む住人は、月の末裔を名乗るカエル達。人語を理解し、2本の足で歩きます。男は成人すると、月冠と言う伝説上の兎耳をかたどった冠をかぶります。女性で霊的能力の高いものは「唄」と言う奇蹟を起こすそうです。この冠と唄が月の一族の証と信じて疑いません。平和で裕福な国ですが、王宮内は一族のしきたり、一部の特権階級のみの思考で動く閉鎖的な空間でもあります。表立った争いはありませんが、裏で策をねるといった“影”の部分がそこにはびこっています。
 しかし、王宮から外に出れば、見たままの平和な世界です。王位に関係ない住人は温厚で人情味があります。豊富な資源、作物はいくら王家に献上しても無くなる事はありません。結果的に王家の生活により住民が縛られる事はそうそうありません。

 この国にも、「鎖」の強制力を受けた子供がいました。月の純血種と呼ばれる特別なカエルで、先代の王の遠縁にあたる者だとか。彼の鎖を用いた能力、知能は一族全体を何度も助けています。そのお陰で、直系の者から疎まれている部分もあります。だから、彼は純血種だと言う事をよく思っていません。普通の生活を好み、どちらかと言えば、一族から遠ざかっていきます。それに、彼は外の生活を望んでいます。平和だが閉鎖的な世界よりも、外界を。

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 彼は自身の「鎖」の声を聞く事が出来るようになってからは、より外の世界により興味を持ちました。「鎖」を持つ者同士は、鎖を通して通じ合っているのです。彼等、彼女達の行動は少なからず自分にも影響します。特に鎖を持つ小さき者・・・均衡の赤子が歪みに体を裂かれ、その代償に鎖の子供を産み出したと言う壮絶な話と、その時に来た月と彗星の使者の事は衝撃でした。彼女等とはどこかできっと会える、そう予感しています。月の使者には個別に、この場所で直接会ってみたい。ここが本当に月の一部なのか、そして自身の「鎖」の能力が月と関係しているのかはっきりさせたい。それに、この地は既に動き出しています。月と星の使者がこの星に降りて来てからは、この地がそれに応えるように変化しています。磁力が以前に増して強くなり、その強力な磁場は外からも中からも完全に移動出来ないようになってしまいました。磁場の強い場所には竹が生える、それも異常なスピードで。竹は月では神聖なものとして扱われていると聞きます。磁場の強いエリアを囲むように、まるで何かを守るように竹が聳え立っています。

 変化は自分の「鎖」にも起こるようになっていた。自分が外に出たいと思えば思うほど、外界より隔離されたこの地が邪魔をする。竹を切ろうにも「鎖」が竹に反応して動けない。竹が意思を持つように鎖に働きかけ、また鎖もそれに答える。間違いない、自分は完全に鎖の連鎖に巻き込まれている。自ら外に出ようとせずも、近いうちに他の鎖がここにやってくる。そう確信した時、やっと鎖の呪縛が弱まった。

―――動ける。今日は、もう戻ろう。

 夢を見ていた。
自分の周りにどす黒い煙のようなものが立ち込めている。その中から、特に濃い部分からは、まるで混沌のような意思が育っているように感じる。・・・歪み。何故かそう思った。これは歪みだ。これが、この黒い意思の名だ。歪みが膨らむ。そして―――中から龍のような形をした異形が出てくる。歪みが子を産んだ。相当の時間をかけて中で育てていたものを吐き出したかのようだ。出産を終えた歪みはそのまま世界を飲み込み、龍は移動する度に周りを歪ませている。その中で自分は鎖に絡み取られ、動けない。そのままこちらに向かってきた龍に食べられ・・・無と化した。
しかし、上空から一筋の月の光・・・降り注ぐ浄化の光が照らすと龍は溶けていく。中から自分が月の光に包まれ、その光が次第に大きくなる。あたり一面が青い光に満ち・・・目を覚ました。

―――妙にリアルな夢だった。何故か夢の内容を知っているような気がした。

こういった類の夢を見た日は眠れない。気晴らしに少し歩いてくるか。

 磁場の強い竹林周辺の見回りを兼ねて湖の畔に行くと、見知らぬ者がいます。侵入者か? だが、ここは外部から隔離された世界。最近の磁場と竹林の状態では、外部から入る事等出来ないはず。それに例え侵入出来たとしても警報が鳴るはず。一体何者だ? 暗くて、相手がよく見えません。カエルは息を殺しながら、近づいていきました。

 「鎖」が語りかけます。同じ臭いがする・・・恐らく「鎖」を持つものだと。

 同じ鎖持ちであれば、問題ないだろう。もしかすると例の噂話に関する者の可能性もある。カエルは正面から近づく事にしました。そこにいたものは、不思議な生き物でした。紫色の体で、頭の上に大きな皿のようなものが乗っています。変わった風貌をしています。古い書物に記されているような民族系の衣装を纏い、それも戦に出るような・・・軽装だが、体を守る装備のようにも見えます。河童と呼ばれる伝説上の生き物のようでもあります。

はじめまして、カエルさん。それも、珍しい・・・あんた月の純血種だね?」
 相手は気さくに話しかけます。まったく警戒している様子はありません。もっとも、こちらも警戒しているわけではなかったのですが・・・成り行きで隣に座る事にしました。ふたりで湖に足をつける。冷たくて、気持ちがいい。こうやって話していると、何となく以前にもふたりで話した事があるように思えてきた。「鎖」を持つものが何となく通じ合う部分がありと言うのもうなずける。

「あなたは一体・・・? それにここへはどうやって?この磁場と竹林を越えてくるのは難しいと思いますが。」
「見てのとおり、私は河童。もともと河童もカエルも月から移住してきた民だから月の磁場には影響されないんだ。ここに入れたのが証拠と言えばいいかな?」
「??初耳ですよ・・・そんな話は。それに、俺はここから出る事が出来ない。ちょっと唐突すぎる話だね。」
「では、ひとつ話をしましょう。ここは月の石により月と繋がった地。私達は月からこの地を通ってこの星に来た。竹の壁で囲まれて入れない場所がある。そこには特別な竹があり、今でも月と交信くらいは出来ると思うよ。それに月の浄化の光は、間違いなくその竹を通してくる。私の村ではここは聖なる地、月の村と呼んでいるんだ。恐らく王宮に住む王族は知っている事だと思う。昔からカエルは王族と民の差が激しかった。いや、非難している訳ではないのです。」
「気にしていませんよ。俺は王族が嫌いだから。」
「そうか。それは良かった。折角だから、私の話を聞いてもらえないか?同じ鎖の呪縛を受けた者として。」


会話の中、河童は成り行きを話しました。

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 夢を見た・・・歪みと呼ばれる何か世界を飲み込み、その歪みより産まれた子供・・・歪みの龍が世界を歪めている。その場所に自身の鎖で繋がれていたのが、カエル・・・確かにあなただった。私はそのカエル・・・つまりあなたを助け、歪みから逃げだそうと試みたが、歪みの龍の移動速度はとても早く、直ぐに追い付かれてしまう。駄目だと覚悟したその時、そこにはいつの間にか均衡の鎖の子供達が龍を囲んでいた。子供達は果敢に龍を倒そうとするが、力の弱い子供達では龍の鎧に弾かれてしまう。次第に龍の回りが歪んできた。このままでは子供も自分も歪みに巻き込まれ、全滅してしまう。
 その時だ。正面に現れた月の使者が放った光は一瞬にして龍を消し飛ばした。あれだけの大きな龍を一瞬で、いとも簡単に消し飛ばした。なんて強大な力。だが・・・何故か月の使者は苦しそうだった。正直怖かったよ。歪みや龍よりも、月の使者に恐怖を感じた。そこで夢から覚めたのだけど、月の使者は何かに蝕まれているようだった。
 始めはリアルな夢だと思った。しかし、この間、星の蝶を名乗る者に会って聞かされたのは、鎖を持つ者が皆その夢を見ていると言う事、そしてその話は正夢に近いもの、それも世界も鎖を持つ者も総てを巻き込んだ事が近い将来起こると。

「凄く具体的な夢だと思うが・・・俺が見た夢は歪みと歪みの龍。そして龍に食われる自分だけだった。」
「鎖を持つ者との接触が足りないんだ。鎖の呪縛を受けた者達と直接会って話せば、夢はより具体的になる。今のまま何もしないで時間が経てば、あなたの夢通り、私たちはただ食べられるだけの存在でしかない。今日、私と接触した事で夢の内容が少し変わると思う。夢の続き、内容は自分の行動で変えていくしかないんだ。」


「本当に・・・そうなるのだろうか。たしかに外には出たいと思ってはいるが・・・」

「迷うのは当然の事。あなたはこの国から出た事がないからね。だから、私があなたを外の世界に誘いに来た。このままふたりで外に出れば、逃れられないシナリオが発動してしまうだろう。皆が見ている夢がより具体的に、そして現実になる可能性がある。しかし、それでも私は鎖を持つ者として、他の鎖を持つ仲間達を助けたい。会った事のないネハルと言う均衡の子供が死んだ時、何故かムショウに悲しかった。亡くしてはいけない仲間を失った気分だった。あなたもその話は鎖から聞かされていると思う。鎖を持つ者は皆、繋がっているんだ。だが、何故繋がっているのかを知りたい。」

今までの落ち着いた口調でなく、本音を語った熱い想いだった。

「あまりに唐突な話だが、鎖を持つ者であれば、今後がどうなるか、そしてこの状況から決して逃げられないのはあなた自身がわかっていると思う。だから・・・だから、私と外の世界に出てみないか、カエル王。先代より鎖の呪縛を引き継いだ若き王子。」

「王? 俺は王ではないし王位の継承権なんてものはもっていない。それに俺は王に興味はない。」

「月の民の鎖の引継ぎは意思と魂の引継ぎ。月の王家では鎖を引き継ぐ者が王になるとされている。過去のカエル王も総てそうだ。王は総て鎖で繋がれていた。私も、村長より鎖を引き継ぎ、そして長は死んだ。鎖の伝承は鎖に先代の意思と命がこめられているもの。」

「そんな話は聞いた事がない! それでは先代の命を奪ったのは俺のせいか!?」

「それが現実なんだ。だから、今この国に王がいない。代理が国を治めるなんておかしな話とは思わないか?昔はこの星にもカエルと河童の国はいくつもあった。月から来たカエルと河童はこの星で暮らし、いろいろな理由で一族が分裂していった。しかし、鎖を持たない者や鎖を引き継ぐ資質の無い部族は滅んだ。この地、この国は月と同じ磁場の中だから成り立っているだけなんだよ。この星で生きていくには、何かしら鎖に依存している。鎖は一種の生命維持装置のようなものかもしれない。いや、これは私の考えだけどね。」

「そんな・・・鎖とはなんだ。そんなに大事なものか?」

「今、現状で分かっているのは、私達は誰かに鎖の呪縛をかけられていると言う事だけ。だから、この呪縛をかけた本人に直接会おうと思っている。これも星の蝶から聞いた話だけど、ネハルはただ歪みと戦っただけでなく、蝶と兎の助力以外に鎖の呪縛に関する事を知っていたらしい。だから、既にこの鎖と鎖を持つ者は巻き込まれている。このまま進めば、きっと何かがあるにちがいない。カエル王よ、ここにいては自身の事も鎖の事も世界の事も見通せはしない。」

「分かったよ。外に出る方法を教えてくれ。仲間に会いに行きましょう。」


2. 集う鎖。

 大半が海と言う水で覆われた星は、そこに住むに必要な技術力を得るに至りました。海に浮かぶ街、海を埋立てて作った都市、そして海底宮殿。高度な技術を確立させたのは、遥か昔。元は死せる星を生命が住める星に書き換えたのは、他から来た者のようで、今でもその時の技術で安定した気候や人が住める環境を維持しているようです。では、過去のテクノロジーでこの星は生かされていると言う事? そういう事になってしまいます。この海底宮殿もその時の名残で、昔からこの場所でこの姿で存在し続けていると言う話です。現在の人類の技術では、ここまで大規模なものは作れません。
ここを治めているのは龍の女王と言う者です。大海原のヌシの娘で、ヌシが自ら政治に関わった時からこの宮殿の維持を任されています。この龍の女王もまた、鎖の呪縛の一人で、この宮殿のメンテナンスに関しては右に出るものはいません。オーバーテクノロジーを理解する数少ない人間。しかし、そんな彼女が民から慕われているのはそんな理由ではありません。
海の移動手段としては、主に船がりますが、事スピードに関しては、最速の移動速度を持つのは、船でも最新式のホバーでもありません。それは「ミズチ」と呼ばれる水龍の一種で、気性が荒いうえにプライドが高く、人間が乗る等と言う事をそうそう許すものではありません。彼女は多くのミズチを手なずけ、そして自らもライダーとして海を駆け抜けます。水の惑星で1番早い乗り物をあやつる者は、畏敬と畏怖、尊敬される存在です。ライダーとは、この海で最も有名で人々が憧れるものなのです。故にこの海域での彼女の言葉はとても大きい。ヌシの娘であり、宮殿一の技術者である事を差し引いても。

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 今日も総てのミズチを引き連れて、海を巡回する・・・と言う事を名目に、思いっきり海を滑る。一日の中でこの時が一番楽しい。宮殿内のメンテナンスが嫌いなわけではないが、水の上を走るこの疾走感はこのミズチ達と一緒でなければ味わえない。このスピードこそがライダーとしての証。速くなければライダーとしての意味をなさない。このまま一生、走り続けたいと思う。どこまでも遠くへ。
 時折、本当に仕事を忘れて遠くへ行こうと思う時がある。ミズチのスピードが速くなる程、時間の流れを遅く感じ、感慨にふける事が多くなる。凄まじいスピードを受けると、徐々に潮風や疾走の音が止む感覚に覆われていく。まるでスローモーションのような感覚。恐らく一瞬だとは思うが、しばらくはその感覚の中から抜けられない。

 だが、その雰囲気を、感慨にふける女王の気持ちを軽〜くぶちこわすもの達が遥か上空に現れた。

「おい!、風が弱いぞ。」
 「熱が足りないんだ、気流の上昇が弱い。」
「風の充電が足りないんだよ。」
 「何やってんだ。」
「落ちる落ちる〜」


・・・何だ、あれ? 喧嘩しながら空を飛ぶ人間なんて初めて見た。ふ〜ん、あれが赤の賢者と青の導師か。こんな変なヤツラが自分と同じ鎖を持つ者か。まぁ、へんなものがイタズラに飛んでいるようにしか見えないが、風と熱を使用する能力は凄い・・・のか?

落ちるまで見ていた方が面白かったが、このまま海の落とすのは可愛そうだ。助けよう。

―――助けてくれてありがとう。おや、あなたは鎖を持つもの・・・龍の女王か。
「こうなる事を見越して、飛んできた。計算通りだ。」
「うそつけ。」

・・・やはり、漫才だな。この二人の掛け合いは。
そのまま海の巡回に赤の賢者と青の導師も同行させ、供に海底宮殿にもどった。

赤の賢者が口を開く。「私達は―――。」
「大海原のヌシと大地のヌシに会いに来た・・・そうだね?」龍の女王が答える。
「月の兎と星の蝶には直接会った。経緯を知っているヌシ達にも会いたい。」
 「そっか。もう、始まってしまうんだね?」


 海底宮殿の応接室に、赤の賢者と青の導師は通された。しばらくすると、中に大海原のヌシと大地のヌシが入ってくる。
 「始めまして、大海原のヌシ、大地のヌシ。私達はあなた方に聞きたい事がある。」
「まぁ、待て。皆が揃ってからだ。」大地のヌシが言葉を遮った。


・・・皆?

ヌシの言葉の疑問の中、龍の女王が応接室に入ってきた。その後からは、カエルと河童が続く。このふたりが月の眷族か。「鎖」から聞いてはいたが、会うのは今日が始めて。

「取りあえず、7人揃ったようだな。訳あって月の兎と星の蝶がいないが、今後について、鎖を持つ者について話し合いたいと思う。」大地のヌシがきりだした。
「先ず、鎖を持つ同士、意思の共有があるから今までの事は理解が出来ていると判断する。それと、各々が見ている夢だが、これも総て共有していくと思う。これからこの星に来る歪みに対しての対策の前に、先ずは自分達の鎖と“空”について知らなければならない。正直、それを知るには“空”に直接会いに行くのがいいと思う。鎖の事も同時にわかるはず。」

「その空と言う者の場所がわかるのか?」カエル王が質問する。

 「ネハルが死闘を演じた地の奥に聳え立つ塔。そこに“空”がいる。だが、恐らく“空”は人間ではないと思う。以前は人だったが・・・当時の管理者が残していった環境維持コンピューターといったところか。」

「それでは会っても意味がないのでは?」

 「かつての管理者達の子孫で電脳師と言う鎖持ちがいる。塔の近くか、もしくは既に塔に入っている。彼女に聞けば、ある程度は解かるはず。」
「それで、総て理解できるのか?」

「現時点では、彼女に会うのが先決。ここにいてもそれ以上の知識は得られない。電脳師と合流し、蝶と兎、ネハルの子供と合流し、“空”に会う。」

「結局、私達は何もわかっていないと言う訳ですか。皆と合流すれば理解できる訳ではないらしい。」
 「まぁまぁ。これからだよ。そんな簡単に解決できるものでもないしね」
大河童とカエル王がため息まじりに応える。

大海原のヌシが口を開く
「大地のヌシ同様、私は“空”に翻弄されていた。自身が鎖持ちと言うことに対しての呪縛・・・正確には記憶の情報操作で鎖の存在を忘れるように仕向けられていた。ネハルの一件で、外の世界より来た兎と蝶に鎖の呪縛をかけたのは私達。しかも、ご丁寧に“裏切りの鎖”まで用意されていた。つまり、私達は鎖持ちでないと困ると言う設定になっている。鎖を持つ者達は皆、物語上の登場人物のように役割が決まっている。だから、直接“空”ないし、“空”に縁のある者に合わなければならないと思う。」

・・・それと、もうひとつ気になる事がある。

「赤の賢者と青の導師は直接見ているから知っていると思うが、月の兎と星の蝶・・・あのふたりの力は私達が束になったところで、どうにかなるものではない。あれだけの力を持つ者が簡単に鎖の呪縛を受け入れるとは思えない。恐らく“歪み”の力よりも兎と蝶の力の方が強い。どう考えても意図的に鎖を受け入れたとしか考えられない。その証拠に、鎖持ちは意識の共有があるが、兎と蝶に限っては断片的な情報しか伝わって来ない。鎖をコントロールしている。必要なものしか使用していない。」

・・・そして、事のはじまりであった、ネハルの一件。

「私は、ネハルが死んだ事に対して疑問がある。兎と蝶は歪みに対しては一切の攻撃を行わなかった。ネハルに対して奇蹟の唄を発動させただけだ。まるで、ネハルがやろうとしていた事を手伝ったような。だとすれば、ネハルの真意が分からないし、鎖を通しても伝わってこなかった。兎と蝶同様、ネハルも鎖の能力を完全に理解していた可能性がある。」

「バカな! ネハルは見殺しにされたのか!」 赤の賢者が叫ぶ。

「まぁ、まぁ落ち着いてよ。」青の導師が制した。
「大海原のヌシよ、その仮説、面白いよ。月の兎と対峙した時に見た2人の護り手の子供は、月の兎と星の蝶の力を得ていた。一人はネハルそっくりだった。」

「その通りだ。他の子供もカエル王や大河童、大地のヌシ等、鎖持ちの姿に酷似している者が多い。残った子供達は何かの鍵のような可能性がある。ただ、ものには順番がある。私達は知らない事が多すぎる。まずは電脳師と“空”に会い、事実を理解したところで星の蝶に聞いてみようと思う。星の蝶は、恐らく総てを知っている。」

 「面倒くさいなぁ、先に蝶に聞いた方が早くない?何なら私がミズチをすっ飛ばして行くけどね。蝶の場所、知ってるの?」

「いや、多分話してくれないよ。この際、兎と蝶については、別に考えよう。また月の兎に暴走されても困る。今の彼女は非常に危うい。それに兎と蝶自身も相性がいいように思えない。あのふたりは私達の手に負えるものではない。敵ではないと思うが、ここは後回しにした方がいいと思う。」

「待てよ、ネハルの事を知っているのはあいつらだけだ。それに私達はネハルの事を聞きに来たんだ。対峙した時、明らかに兎と蝶は私達とは異質の存在だと感じた。“空“や電脳師の話も大事だとは思うが、最終的な鍵は星の蝶だと思う。」

「そうムキにならないで、赤の賢者。ネハルは無駄死にではない。兎と蝶が子供達、ネハルの事を思う気持ちは本物だった。先ずは出来る事からやろう、ネハルの為にも。」


しばし沈黙。だが、今後の行動の整理がついたようだ。

 「どうやら、決まったようだね。あまり時間があるようにも思えないし。直ぐにでもここを発った方がいいかな。」青の導師がしめくくった。

大地と大海原のヌシは言う。
「私達は、まだ行けない。今後の準備がある。代わりに娘を連れて行ってくれ。」

「あいよ。」

大地のヌシと大海原のヌシを残して、5人はミズチに乗って塔に向かった。

―――。

行ったか?
行ったよ。私達は私達の仕事がある。月の兎への償いも・・・だ。

そうだな。
そうだ。“空は”、皆に任せてこちらは今後の準備にとりかかろう。

忙しくなるな。
忙しくなるね。鎖を知らなかった期間、何もしなかった時間を取り戻そう。

やるぞ。
やろう。後の事は電脳師に頼んでおいた。星の蝶にも連絡してある。


3. 塔へ!

 5人は塔に進みます。大地を歩いて進むより、陸地をミズチで迂回していった方が明らかに早いのですが、それでも塔までは3日程かかります。ミズチ達には悪いが、最高速度で飛ばしてもらう。何故だか分かりませんが、5人とも妙に焦っています。これから起こる事を肌で感じているようです。
「急ぐぞ!」 龍の女王はムチを振るった。

・・・はるか上空でその様子を見ている者ふたり。
共に顔色が非常に悪いようです。この星に毒されている月の兎と、月と相性の悪い彗星の一族・星の蝶は、命を削られていく痛みに耐えて、蝕まれている体で行動していました。

「ついに鎖の者が揃った。もう私にも星の蝶にも時間がないんだ。ネハルの意思を継ぐにも、そしてネハルの願いを聞き入れるにも早く行動しなくちゃ。」
「辛いかぃ?月の兎。」
「大丈夫だ。鎖の生命維持装置を最大にして、何とか外気毒を押さえつける。」
「そっか。私も鎖の生命維持装置を最大にしておこう、どうせ後が無いのだから。」
「すまんな、私の我侭に付き合ってもらって。」
「もともと、この問題は彗星一族の問題。そして僕の想い。月の女王に無理やりお願いしてあなたの協力を得た。感謝しているよ。」
「急ごう、早くしないと、私達の体がもたない。」
「もう少し。もう少しだ。あの時、ネハルとの約束が、もうじき終わる。」


塔が見えてきた。ミズチ達の調子を見ながら、龍の女王は手綱を弱めた。ミズチ達はもう限界だ。近くの陸地で休ませないともたない。疲労しているミズチ達を水辺で休まして、塔に向かう。
「ありがとう、ミズチ達。ゆっくり休んでくれ」

 5人は徒歩で塔に向かいます。あれだけ目立てば、道に迷う事はないだろう。しかも、何故か道を知っている。鎖に導かれているようだ。

・・・そして。
着いた。やっと塔の入口前に。雲にまで届きそうな細長い塔。あまりに不自然な人工物。
5人が中に入ろうとした時、扉が開いて中から人が出てきました。

「遅いぞ!お前達。いつまで私を待たせるつもりかぇ?」

そこには初めて見る顔がありました。

「私は電脳師。管理者の子孫にあたる。大地と大海原のヌシ達から聞いていると思うが。」

これで、鎖の呪縛に翻弄される者が総て登場しました。バラバラになっていた鎖が、今ひとつになる!
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posted by に〜さん♪ at 09:38| Comment(0) | TrackBack(0) | ■月の兎と星の蝶の子守唄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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